デカイ宇宙船を抜けるとカンボジアであった。

 『スカイラインー奪還ー』という映画がある。
これは、宇宙船に吸い取られた宇宙人の肉体に自身の脳を移植された人間が、それでもなお人として戦う姿を描いたSF映画スカイラインー征服ー』の続編である。(ちなみに僕は奪還を見た後に征服を見た)
「人類、再吸収」とかいうアホなキャッチコピー、また、『ザ・レイド』でデビューし今やハリウッドでも活躍する(SW ep.7での使われ方には怒ってるけど)インドネシアのアクション俳優、イコ・ウワイスが出演している謎キャスティングに惹かれ、とりあえず観てみることにした。

 前半は宇宙船への吸収のされ方が情けなさすぎることを除けば割と普通なSF映画。制作が『アバター』とかのVFXを担当してた会社らしく、技術屋の自主制作ということもあってか、映像にB級っぽいダサさはあまり感じなかった。
 ストーリーも普通に面白かったし、前作からのちょっとした伏線みたいなのもあったらしく楽しく観れたけど、なんとなく緊張感を抜いたロサンゼルス決戦という雰囲気でダラダラとしていたのはある。

 まあまあ普通かなと思いながら、半分がすぎる頃にはだいぶ飽きてきた。割と序盤で吸収されちゃったから、ほぼ全部宇宙船内の話になっちゃってて、どうしても単調な感じになってくる(主人公達をバラけさせたり、前作の主人公らしき人物とバディを組ませてみたり、色々工夫はあったけど)。
 しかも、イコ・ウワイスが全く出てくる気配がない。もしや、宇宙人役で着ぐるみ着せられて登場してたのか?またシラットを打たせてもらえないのか?糞ポリコレ気取りSWの前例があるだけにその心配が拭えない。そもそも半分はイコ・ウワイス見るためにこの映画を借りたのだ。宇宙人でしたじゃ済ます訳がない。

事が起こったのはそのあたりだった。



 映画が進むとともに肥大化する疑心がリモコンの四角いボタンに到達しようとした時、何故か宇宙船が爆破された。

 何故かという言い方は失礼だった。一応、主人公が宇宙船からの脱出を図ってという流れがあったらしい。いずれにせよ、集中力が途切れていた僕には完全に不意打ちだった。たぶん観た人の7割はそうだと思う。
 いまいち状況が整理出来ないまま、墜落していく宇宙船を内部から体験する。全く訳がわからないという意味でその時の主人公の心情と奇しくもリンクした。
 轟音とともに地面へと衝突した宇宙船に外の光が差し込む。先程までの衝撃が嘘のように静かになった船内から主人公が恐る恐る顔を出すと、ラオスだった。

 「トンネルを抜けると雪国であった。」とは「雪国」の書き出しとして余りに有名であるが、それをヤンキーとマッチョの国アメリカが表現するとどうなるか。

 「デカイ宇宙船を抜けるとカンボジアであった。」

バカにしてるかと思うかもしれないが、このシーンを観たときは、冒頭しか読んでない「雪国」のあの情感が確かに湧き上がってきた。トランプに雪国を訳させたら、恐らくこれに類する訳をしてくれるだろう。

 この時点で期待を優に超えてくれたわけだが、直後、イコ・ウワイスが満を持して登場し、宇宙人を素手で殺しまくる大活躍を見せ、更に、クライマックスでも主人公と共闘してくれたので大満足である。

興奮で後半の記憶はあまりないので、ここあたりで…。


 ただ、一つだけ言いたいのは、ラオスだと言ってるのに、イコ・ウワイス演じる反政府レジスタンスの根城がどう見てもアンコールワットにしか見えない。
そこあたりの無頓着含めて、やっぱ雪国の英訳としてかなり優秀な作品なのでは。